
近年注目を集めている庭園の1つ、センサリーガーデン、聞いたことはあるけど、どのような庭園なのか、よくわからないという人も多いでしょう。
センサリーガーデンの詳細や、社会的な役割について解説します。

センサリーガーデンとは
センサリーガーデンのセンサリー(sensory)は、感覚の、知覚の、という意味の形容詞です。
視覚、嗅覚、聴覚といった五感を刺激するように、植物や構造物を設置した庭園や公園を、センサリーガーデンと呼びます。
たとえば庭を構成する大きな要素の1つ、植物はそれぞれ、色とりどりの花を咲かせ、私たちの視覚や嗅覚を刺激します。
つぼみが開く、紅葉して葉が落ちる、といった四季の変化も、視覚への刺激になります。
花や果実は私たちに影響を与えるだけではありません。
色鮮やかな花々や実は、鳥や昆虫も呼び寄せる効果があります。鳥の鳴き声や虫の声は聴覚を刺激します。
聴覚は、噴水や小川の流れといった水音や、砂利敷きの道を歩いたときの音、葉ずれの音や風鈴の音でも刺激されます。
果樹や野菜を植えて収穫すれば、味覚も刺激されるでしょう。
また植物の葉や花、果実の質感はさまざまです。
ざらざら、ふわふわ、なめらかなど質感の違いを知り、触感を刺激することは、疑問を生み出し、新たな学びを得ることにもつながります。
このように、庭を構成する要素はもともと、私たちの五感を刺激するさまざまな力をもっています。
これを意図的に組み合わせたり、単体で用いたりしながらつくった庭園や公園が、センサリーガーデンなのです。
多くのセンサリーガーデンは、いくつかの感覚を同時に刺激するようにつくられていますが、たとえば聴覚に特化したセンサリーガーデンはサウンドガーデン、嗅覚への刺激に重点をおいたものはセンテッドガーデンと呼ばれるケースもあります。
センサリーガーデンのメリット・デメリット
センサリーガーデンは五感を刺激する空間です。
たとえば鮮やかな色彩や風の音を感じることで、記憶が呼び起こされることがあります。
自然の光を浴びることで、睡眠の質を向上することも可能です。センサリーガーデンを散策することは、適度な運動にもなるでしょう。
五感を刺激されることで、リラックス効果を得られたり、ストレスの軽減につながったりする点が、センサリーガーデンを利用するメリットです。
一方で特筆すべきデメリットはありませんが、利用の際に注意しなければならない点があります。
センサリーガーデンは感覚特性をもつ人の症状軽減に役立つとされていますが、たとえば水音や鳥・虫の声などが、人によっては気になりすぎてしまうこともあるでしょう。
人によっては花粉症などのアレルギー反応が強く出てしまったり、集まってきた虫を苦手と感じたりすることもあるでしょう。
また歩く感覚を刺激するためにつくられた砂利敷きの道は、年配者には歩きにくかったり、車椅子での通行が困難だったりしてしまいます。
感覚を刺激するように設計されているセンサリーガーデンは、目的に合った場所を選ばないと、その刺激がかえってストレスになってしまう点は、注意が必要です。
利用者を限定してしまう可能性がある点は、センサリーガーデンをつくる側にとってのデメリットと言えるでしょう。

センサリーガーデンの実例紹介
センサリーガーデンは主に海外を中心に提唱されているため、日本国内ではあまり大規模な実例が見られません。
そこで海外にあるセンサリーガーデンの中から、シカゴ植物園を紹介しましょう。
シカゴ植物園は、アメリカ中西部のシカゴにある植物園です。
約155ヘクタールある広大な敷地内には、庭園や自然保護区、カフェ、ガーデンショップなど、さまざまな施設があります。
ローズガーデン、果樹園、日本庭園など、さまざまな種類の庭園の中の1つが、センサリーガーデンです。
ここでは、花壇を一段高いところに設けて、身体が不自由な人でも植物に触れやすいよう、工夫されています。
また触感を刺激するシルバーセージやコーンフラワー、嗅覚を刺激するバラやコスモスが植えられています。
花や果実に誘われて訪れた、鳥のさえずりを楽しむこともできるでしょう。
庭園内に植えられた花々は、温かみを感じられる配色で植えられています。
シカゴ植物園のセンサリーガーデンは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚に刺激を得られる庭園と言えるでしょう。

センサリーガーデンの社会的な役割とは?(福祉・教育への応用)
センサリーガーデンは、屋外で過ごす時間や自然と触れ合う機会を増やすことにもつながります。
五感を刺激し、身体を動かすことが心身の健康につながることから、センサリーガーデンは認知症のケアに効果があると考えられています。
自然の中で過ごすことは、興奮状態やうつ状態の改善や軽減につながります。特定の香りや音を感じることで、記憶が呼び起こされることもあるでしょう。
認知症患者が落ち着いてゆったりと過ごす時間を確保することは、介護者にとっても有益な時間になります。
日本でも、介護施設に利用者、介護スタッフ、地域住民の交流の場としても活用できる、センサリーガーデンの計画が進められています。
またセンサリーガーデンは、教育の場としても活用できます。
これは植物に触れ、感じることで、子どもたちが植物や自然の仕組みを知る手がかりになったり、コミュニケーションやレクリエーションの場になったりするためです。
センサリーガーデンは、私たち個人に影響を与えるだけではなく、福祉面や教育面など、社会的にも影響をもった施設と言えるでしょう。

まとめ
庭を構成する植物、水、土などの要素はさまざまな手法で私たちの五感を刺激しています。
これらの効果を意図的に組み合わせて設計された庭園や公園が、センサリーガーデンです。
五感を刺激されることで、リラックス効果やストレス軽減の効果などを得られるでしょう。
センサリーガーデンは、認知症患者のケアや教育面でも効果があると言われているため、福祉的、教育的な役割も担っています。

