2023年造園技術フォーラムの内容とは?主な議題3選

主な議題

造園技術フォーラムは、造園技術のさらなる向上を目指し、日本造園建設業協会やその会員企業、日本造園学会が行ったさまざまな調査・研究の成果を発表し、情報の共有を図る場です。

最新の研究成果や事例に触れることができる、貴重な機会と言えるでしょう。

今年度のフォーラムでは、開催地である東北総支部が「植栽基盤調査の重要性」について発表しました。

そのほか、北海道総支部の「北国における屋上緑化事情」、関東・甲信総支部の「八ッ場ダム関連造園工事を通じて考える造園の役割」が主な議題です。

植栽基盤調査を行う重要性
植物が生育するためにはある一定の土の層が必要で、これを植栽基盤と呼びます。

植栽基盤は、植物の生育に必要な水分と適度な養分、植物を支える根が広がる範囲、適度な排水性を有していなければなりません。

植栽する場所の土壌がこれらの条件を満たしているのか、事前に調査することを「植栽基盤調査」と言います。

フォーラムではこの植栽基盤調査の重要性について、「基礎」「実践」「啓発」の3つに分けて発表が行われました。

<植栽基盤調査の基礎>
植栽基盤調査を実施するときには、植栽基盤の定義や樹木の生育不良の要因、根の伸び方等についての「基礎」知識が必要です。

これらの「基礎」知識は、調査を「実践」するときの内容や重要性を理解することにつながるでしょう。

<植栽基盤調査の実践>
調査の「実践」では、以下の測定器機と資料を準備することが推奨されています。

植栽基盤調査で用いる測定器機
| |測定内容|h
|長谷川式大型検土杖|土壌の採取・断面構造|
|長谷川式土壌貫入計|土壌の硬度|
|長谷川式簡易現場透水試験器|土壌の透水性|
|pH・EC測定器|土壌の酸性度・電気伝導度|

植栽基盤調査で用いる資料
| |内容|h
|土壌図|地表面から1mまでの表土を分類表示したもの|
|植栽基盤整備ハンドブック|植栽基盤整備の基礎知識|
|緑化樹木ガイドブック|造園工事でよく使われる樹木の性質・生育条件などを記載|
|樹木根系図説|主要樹木の根の生長の仕方などを解説|

<植栽基盤調査の啓発>
費用がかかることや調査義務がないという制度上の問題から、植栽基盤調査の重要性はあまり認識されておらず、普及していないのが現状です。

そこで今回の発表では、「植栽基盤調査に対する苦手意識をなくすためにまずは3回調査をしてみること」「調査結果や提案内容を経験者に見てもらい植栽基盤診断士の試験の合格に結びつけること」「実際の植栽計画に対して積極的に意見を出すこと」の3つが「啓発」として提言されました。

これらの提言は植栽基盤調査を普及させ、造園技術への信頼性を高めることにつながるでしょう。

北国における屋上緑化の現状
北海道を含めた北国では、首都圏に比べて屋上緑化施工件数が少ない傾向にあります。

これは冬季の積雪量が多いために、植えられるものが地被類や宿根草に限られてしまったり、積雪量を加味した耐荷重を考えて設計・施工しなければならなかったりすることが要因です。

実際に令和元年に国土交通省が行ったアンケート調査でも、北海道や東北、北陸地方など、積雪が多い地域では屋上緑化件数が少ないという結果が出ています。

国土交通省 令和元年 全国屋上・壁面緑化施工実績調査
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001380405.pdf

一方で、札幌市内で進む再開発事業に伴い、今後屋上緑化への需要増加が期待されています。

株式会社横山造園では、2023年3月にオープンした「エスコンフィールド北海道」で、プランターを用いた屋上緑化を行いました。

外からも見えるように高い位置にプランターを設置し、アジサイやヘデラ、ホスタ、ラベンダーやセージなど、北海道の寒さと積雪でも耐えうる植物が選定され植えられています。

この実績を足がかりに、北海道でも、首都圏のように大規模な屋上緑化が期待されています。

北国の屋上緑化は、積雪といった条件の中で今後、どのように継続していくのか、今までの技術をどのように継承していくのかが課題と言えるでしょう。

八ッ場ダム関連造園工事を通じて考える造園の役割
続いて行われたのが、「勝沼水辺公園と長野原地区上面の2つの八ッ場ダム関連整備工事を具体例とした、造園の役割」についての発表です。

八ッ場ダム建設が進む長野原町では、地域住民と一緒にサクラの苗木を植えて共に育てる「やんば1万本桜プロジェクト」が行われています。

株式会社山梅では、このプロジェクトのサポートとして植栽環境の調査と提案、公園工事におけるサクラの植樹やシンボルツリーの寄贈などが行われました。

造園工事を通じて新たな観光名所を作り、地域の振興、発展に寄与することで「地域をイキイキさせること」に成功した実例だと言えるでしょう。

また、ダム工事に伴う山間部植樹の生育不良についての事例では、植生管理士や植栽基盤診断士による調査と原因究明が行われています。

土壌の排水不良やカモシカの食害などが原因だったため、植栽基盤の改良や害獣侵入防止柵の設置等を提案、施工することで、苗木の順調な生育につなげています。

原因調査と改善方法の提案、施工を一環して行うことで「緑がイキイキとする」ことに成功した事例です。

原因の調査と検討、対策を通じて、どの事例からも造園は「地域や緑をイキイキとすることができる」と言えるでしょう。

まとめ

今回の造園技術フォーラムではこのほかにも、新潟県におけるフラワーフェスタの取り組みや、鎮守の森整備事業についての発表なども行われ、どの議題も最新の造園技術に触れられる、興味深いものでした。

事前の申し込みは必要ですが、会場参加は無料、WEB配信も日本造園建設業協会や日本造園学会の会員、学生であれば、無料で参加できます。興味をもたれた方はぜひ、次回の造園技術フォーラムに参加してみると良いでしょう。