緑が街を守る!防災に強い造園の知識と事例

気候変動や環境の変化に伴い、近年の日本では暴風、豪雨、洪水、土砂災害、高潮などによる気象災害が頻発したり、各地で大規模な地震が起こったりしています。

安心・安全で生活するためには、さまざまな手法・分野で対策がとられていますが、庭づくりや公園づくりに携わる造園業もまた、防災に一役買っていることをご存じでしょうか。

造園業と防災の関連性や、防災公園、協力体制などについて詳しく紹介します。

造園と防災の関係性と基本概念

造園業の仕事は、庭園、公園、緑地などをつくったり、その維持管理をしたりすることです。

じつはこの公園や緑地といったオープンスペースは、防災機能を備えています。

たとえば大規模な災害が起きたときの避難場所、避難路、帰宅困難者の一時的な居場所として活用されます。

救助活動の拠点になったり、復興活動の拠点としても利用したりもできるでしょう。

また公園や緑地に植えられた樹木には、火災の延焼速度を抑えたり、火災の拡大を阻止したりする機能を持っています。

しっかりと深くまで根を張った海岸林は、津波の力を弱めることができます。

造園業がつくりだす庭や公園、緑地といった空間は、植物の力を利用した防災機能も備えているのです。

防災公園の設計・整備技術と基準

地方自治体などから救出・救助拠点、ヘリコプターの活動拠点、避難場所などに指定されている公園は、防災公園と呼ばれています。

防災公園は規模や目的によって基準や設備が異なります。

広域防災拠点
市町村を越えてつくられる広域公園におかれる、防災拠点です。

各自治体の管轄を超えて災害が起こった場合に利用され、救出・救助の拠点として警察、消防、自衛隊などのベースキャンプ地になったり、支援物資の集積拠点として利用されたりします。

復旧・復興の拠点としての役割も担っているなど、さまざまな機能を有しているため、おおむね50ヘクタール以上の広い面積が必要です。

地域防災拠点
各地方自治体単位での避難、情報収集、救出・救助活動などが行われる防災拠点です。

おおむね10ヘクタール以上の面積を有していて、総合公園や運動公園といった、都市基幹公園に設置されます。

状況に応じて、物資輸送の中継地点として利用されたり、救援部隊の拠点になったりもします。

広域避難地
大規模災害時に、一時的な避難場所として利用されるのが、広域避難地です。

多くの人が一時的に避難することを目的としていて、おおむね10ヘクタール以上の広い面積が必要とされるため、地域防災拠点と同様に、都市基幹公園などに設置されます。

一時的な避難場所ではありますが、その後救援物資の中継地点となったり、救出・救助の拠点として利用されたりもします。

一次避難地
広域避難地などの安全な場所へ避難するための中継地点として活躍する避難地です。

近隣公園、地区公園など、住まいの近くにあり、徒歩で移動できる範囲にある、比較的小規模な公園に設置されますが、おおむね2ヘクタール以上の広さが必要であると規定されています。

広域避難地への中継地点ではありますが、身近な物資の配給地点や救出・救助の拠点としても利用されます。

避難路
広域避難地や一次避難地へ移動するとき、安全に移動できるよう利用される道路で、緑道とも呼ばれています。

緑道は、住宅街と住宅街、公園、学校、広場など、災害時に避難場所として利用できる場所を結ぶように配置されています。

また安全に通行できるよう、主に歩行者または自転車の利用を前提としていて、10m以上の幅員が必要です。

緑の強靱化:災害に強い緑地設計とは

防災拠点として緑地や公園を利用したり、災害に強い緑地を設計したりするためには、気をつけなければならないポイントがあります。

まず重要なのが、点在する緑地が連携して防災機能を発揮できるよう、都市における緑地保全や緑化推進などを含め、総合的に計画することです。

また平常時から利用している方が安全な場所、避難できる場所として認知されやすいため、地域の住民が日常的にその公園を利用できるよう、一般的な公園、緑地としての機能も備えていなければなりません。

また樹種の選定も重要です。火災に強い樹種、津波に耐え得る樹種など、目的に合わせた樹種選定が必要でしょう。

造園業が参加する防災協力体制の実例

造園業が関わる防災は、避難地や防災拠点となる公園、緑地の整備だけではありません。

全国各地に支部がある一般社会日本造園組合連合会では、各都道府県や市町村と防災協定や災害協定を締結し、協力体制を結んでいます。

どのような協力をしているのかは、地域によってさまざまです。

たとえば造園業ではバックホウ、チェーンソーなどの建設機械を使用しますが、災害時にはこれらの提供や応急対応をしている会社が多くあります。

大規模災害の建物倒壊に伴う人命救助、避難路を確保するための障害物除去に対応したり、道路などの土木施設の被害状況を確認、報告したりすることも、造園業でできる協力の1つです。

被害の拡大を防ぐために、定期的に河川水路、増水の調査を行ったり、屋敷林保護のためにボランティアで剪定指導をしたりしているケースもあります。

造園業の仕事は、日々の業務の中でも、防災体制に協力できることがたくさんあるのです。

まとめ

造園業がつくったり維持管理をしたりする庭、公園、緑地などは、さまざまな防災機能を備えています。

これは、公園や緑地が、災害時の防災拠点や避難地、避難路として利用できるためです。また樹木は樹種や植え方によって、防火性能や、津波の減衰効果が期待できます。

救出・救助拠点や避難場所などに指定されている公園は、防災公園と呼ばれていますが、防災公園には地域防災拠点、広域避難地、緑道などがあり、それぞれ規模や目的が異なります。

防災公園を含め、災害に強い緑地を設計するためには、都市計画などと連携し総合的に計画することや、日常的な利用と調和すること、目的に合った樹種を剪定することなどが重要です。

また造園業の仕事は防災公園や緑地を設計するだけではなく、日常的な業務の中でもさまざまな手法で、防災に協力できる仕事です。