一括下請負とは?
丸投げと呼ばれることもある一括下請負とは、発注者から請け負った工事の全部、または主な部分、独立した一部を元請企業が施工に関与することなく、一括して下請企業に任せる行為です。
発注者から請け負った建設工事について、契約が分割されたり、他人名義が使われたりしていても、実態が一括下請負に該当する行為はすべて禁止されています。
元請企業が下請企業に仕事を発注する際、元請企業が下請工事の施工に実質的に関与していない場合、一括下請負とみなされます。
実質的に関与するとは、具体的に、元請企業自らが施工計画を作成し、工程管理や品質管理、安全管理、技術指導などを行うことです。
一括下請負の判断基準については、国土交通省によって平成28年10月14日に発出された「一括下請負禁止の明確化について」の通知で詳細が示されているため、建設企業は通知に目を通しておくべきでしょう。
なぜ一括下請負が禁止なの?
一括下請負は、建設業法22条で禁止されています。法で一括下請負を禁止するのは、建設工事の発注者に不利益が生じかねず、さらには建設業界にも悪影響が及ぶ可能性があるからです。
一括下請負は、元請企業から下請企業間だけでなく、下請企業間でも禁止されています。
発注者が建設企業に寄せた信頼の裏切りにつながる
工事の発注者は、発注する建設企業を選定する際、経営状況や施工実績、施工能力、社会的信用など様々な観点を総合的に評価しています。
発注者は、信頼できると認めた建設企業に仕事を依頼したにも関らず、受注した建設企業が工事を下請企業に丸投げしてしまうことは、発注者の信頼を裏切る行為に当たります。
もし、丸投げされた下請企業が、発注者が期待している質、もしくは期待以上の建築物に仕上げたとしても、元請企業が発注者の信頼を裏切っている事実には変わりなく、法律違反です。
不良建設企業を排出する懸念
一括下請負が認められた場合、元請企業は、下請企業に丸投げする際にマージンを取るでしょう。一括下請負がまかり通れば、中間搾取を目的とする施工能力のない商業ブローカー的不良建設企業を排出する懸念があります。
手抜き工事や労働条件の悪化につながる恐れ
一括下請負が許される場合、利益は元請企業によって搾取され、適正な報酬が受けられない下請企業の間では、手抜き工事が横行することは想像に難くないでしょう。
手抜き工事は、建物の安全性が損なわれたり、修理にお金がかかったりして、発注者に迷惑をかけることになります。
また、下請企業の利益が少なくなることで、建設現場で働く労働者の労働条件が悪くなり、労働災害が起こりやすくなる可能性が高まるでしょう。建設業界は多重下請構造のため、末端の下請企業ほど損を被ります。
また、多重下請構造によって、責任の所在が不明瞭であることも問題です。
不良建設企業が排出され、多重構造による力関係によって下請企業に悪影響が及ぶことで、建設業の健全な発展を阻害することが懸念されるため、一括下請負は法律によって禁止されています。
一括下請負とならないケースは?例外はある?
一括下請負は公共工事では全面的に禁止されていますが、民間工事に関しては例外もあります。
民間工事においても、一括下請負は原則的に禁止されていますが、承諾書があれば例外的に一括下請負が可能です。
ただし、民間工事でも、共同住宅を新築する場合は全面的に一括下請負が禁止されています。
一括下請負を可能とする承諾書は、元請企業によるものではなく、発注者による承諾書である点に注意しましょう。元請企業が発注者の承諾を得なければなりません。
また、承諾書は書面でなければならず、タイミングは一括下請負に出す前という点も留意すべきです。
承諾書に関しては、決まった書式がありません。書式に関するルールがないため、承諾書の作成の仕方によってはトラブルに発展する可能性があります。
建設企業は、トラブルを回避するため、工事請負契約書に一括下請負の承諾に関する事項を盛り込むのではなく、工事請負契約書とは別の書面を作成し、発注者の意思を明確に確認できるようにすると良いでしょう。
まとめ
建設業では、法によって一括下請負が禁止されています。一括下請負は、発注者の建設企業に対する信頼を裏切る行為であり、建設企業や建設業界にとってもメリットは何もありません。
一括下請負の禁止に違反した建設企業には、ペナルティが科されます。一括下請負をした場合、仕事を丸投げした元請企業だけでなく、工事を請け負った下請企業も、建設業法によって営業停止処分となり、会社の損害は小さくないでしょう。
例外的に一括下請負とならないケースもあります。一括下請負が可能なケースでも、元請企業は、工事現場に主任技術者や監理技術者を配置するなど、建設業法にある規定を守らなければなりません。
建設企業は、法を犯して大損害を被らないためにも、一括下請負の禁止について建設業法をよく理解しておくべきでしょう。